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オルフェの日記

オルフェの日記

ALS治療情報


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昨年暮れのALS-MND国際シンポジウムで発表された治療情報を、『吉野内科・神経内科医院』の吉野先生
かみくだいてまとめたものです。ani_k_star_ora.gif


筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療情報

1.第17回ALS/MND国際シンポジウム(横浜)より
欧米・豪州諸国以外の地域ではじめてのALS/MND国際シンポジウムが日本で開かれました。
初代ALS事務局長の故松岡さんの念願で、それを奥様でハリー・ポッターを翻訳している松岡佑子さんはじめ多くの方々の努力ですばらしい会議になりました。
毎回設けられている口演での治療セッションはなぜか今年はありませんでした。
やはりALS治療研究は行き詰っているのかな、と最初プログラムみたとき感じましたが、実際に参加すると、大変興味深い研究成果が出されていました。
わたしの研究は 3.エダラボンのこれまでのALSに対する臨床試験成績 で示されていますので、それ以外について報告します。

1)TRO19622第1相臨床試験
フランスABITBOL J-Lら
この薬品は「神経栄養因子」のひとつです。
今までも神経栄養因子は多くの種類がみつかり、その中でいくつかがALSに対し治験が行われましたが、IGF-1が呼吸機能の低下を遅らせた報告以外は有効性が示されていません。
ちなみにFDAは、このIGF-1に生命予後の延長効果が認められなかったことから、承認を与えませんでした。
なお、岡山大学の阿部教授はこのIGF-1を髄液中にポンプで送ることにより、有効性を示しております。
「神経栄養因子」は炎症を引き起こす効果もあるため、副作用も起こります。
今までの「神経栄養因子」は副作用のために有効性が示せなかったのかもしれません。
今回の研究報告は健康成人に対しTRO1962を、プラセボ対象に4用量群に分けて投与し、安全性を検討する試験でした。
頭痛、下痢、便秘などが比較的多くみられたが、用量依存性はなく、重篤なものはなかったという結果でした。
ほとんどの「神経栄養因子」が注射薬であるのに対し、本剤は経口です。
次の患者さんに対する試験結果が報告されるのが楽しみです。

2)ARIMOCLOMOL後期第2相試験
アメリカCUDCKOWICZら
この薬品は細胞内のヒートショック蛋白(ごみ処理場のようなところですが、生体内ではどんどん再利用します)の発現を増強する作用があります。
ALSで運動神経細胞が壊れる病態のひとつに、運動神経細胞内で変異したSOD蛋白はじめとした凝集物を処理しきれなくなることが考えられています。
ARIMOCLOMOLはこの凝集物の処理を促すことにより、運動神経細胞の変性を防ぎ、ALSの進行を遅らせることが期待されています。
なお、今までに試みられたALS治験薬でALSモデル動物に投与されたものの大部分が、発病前に投与しないと有効性がみられないのが実情です。
このARIMOCLOMOLは発病後のモデル動物に投与しても有効性がみられたと報告されたので、今回の結果を私も楽しみにしていました。
試験は全米各地の施設で、プラセボ対象に3群比較試験が行われました。
主要評価項目は呼吸機能の変化でしたが、どうも発表された図の中では用量に従って効果が現れているようにはみえませんでしたが、試験期間は3ヶ月と短かったためかもしれません。
次にさらに大規模な試験を行うとしており、その結果が待たれます。

3)エリスロポエチン
韓国KIM Sら
この医薬品は、透析などで高度の貧血が生じるさいに用いられるものです。
エリスロポエチンはまた中枢神経細胞の保護作用、抗アポトーシス作用があるといわれているそうです。
試験は30日の期間をおいて2回本剤が投与され、投与前2ヶ月間の病気の進行を、投与後の2ヶ月間と比較したものです。
その結果病気の進行は遅くなり、よだれやつっぱりなどの不快な症状も軽減したと報告されました。
この試験はオープン試験といって、患者さん、評価者とも実薬が投与されているからいい結果がでるはずだ、というバイアスがどうしてもかかってしまうため、次の二重盲験試験が期待されます。


2.山形徳洲会病院のスタッフが第17回ALS/MND国際シンポジウムに演題を発表しました。
山形徳洲会病院は平成16年9月1日にオープンしてまだ2年ちょっとたったばかりの病院です。
ここに難病病棟ができ、現在気管切開して人工呼吸器を装着している患者さんは23名います。
この患者さんたちに少しでも入院生活を楽しんでもらおうと、病院をあげていろいろな取り組みを行っています。
そのひとつが毎週金曜日のアルコールゼリーパーティーです(この呼び名は、発表直前に筆頭演者の言語聴覚士の八鍬さんがつけたものです)。
一般的にALS患者さんで気管切開している患者さんは、ほとんど経口摂取できず、経管栄養となってしまいます。
しかし患者さんたちになんとか食べ物の味わいを楽しんでもらおうと、栄養士さんが、個々の患者さんの好きなものを嚥下しやすくゼリー状にこしらえてくれます。
これを栄養士と言語聴覚士が中心になって毎週金曜日のおやつに、希望する患者さんのところに回ります。
そのようにして呼吸器を装着しても経口摂取を行っているALS患者群と、経口摂取をしていない群とで比較して、経口摂取が嚥下性肺炎のリスクになっているかどうか調べた研究です。
嚥下性肺炎のイベントは38度以上の発熱と、抗生剤使用の頻度をイベントとして数え、2群間で比較したものです。
この結果、非経口摂取群は1ヶ月あたり0.16回のイベントであったのに対し、経口摂取群は1ヶ月あたり0.22回で、やや多い傾向でした。
しかし1例頻回に嚥下性肺炎を生じる1例を除くと、経口摂取群のイベント発生率は01ヶ月あたり0.14回となり、ほとんど両群に差はありません。
ちなみにこの方は、入院当初は経口摂取許可しておらずにいましたが、それでも肺炎は頻回で、患者さんから「死んでもいいから口から食べたい」という希望で経口摂取を開始しました。
しかし経口摂取する前と後とで、あまり肺炎の頻度は変わりありませんでした。
もちろん気管切開して人工呼吸器を装着している患者さん、だれでも経口摂取できるわけではありません。
しかし医師の指導の下、言語聴覚士が患者さんにあった首の角度、位置を調整し、栄養士さんがその患者さんにあった食事をつくれば、少しでも長く経口摂取を楽しめることを示唆しています。
ちなみに山形徳洲会病院と静岡徳洲会病院では、嚥下まったくできない患者さんにも寝酒をふるまっています。いろうから注ぎます。酒豪だった患者さんでも、だいたい1~2合で心地よい眠りにつくことができます。
お酒は家族にもってきてもらいますが、高そうな吟醸酒を注いでもらった患者さんに翌日、「おいしかった?」と尋ねると、ニヤリと笑顔を返してくれます。
胃に直接日本酒をいれても、多少食道を逆流して香りが口腔に達し、味がわかるのかもしれません。
余談もうひとつ、平成17年11月に名古屋徳洲会病院が開催した徳洲会神経難病カンファレンスの懇親会に、日本ALS協会元愛知県支部長との藤本さんと、現会長の河西さんが呼吸器を装着して参加してくださいましたが、お二人の飲みっぷりは素晴らしかったです。
藤本さんはいろうから何倍も赤ワインを奥さんに注がせ、川西さんはたしかストローで日本酒を何敗もおかわりしていました。
その前年の11月大阪で開かれた徳洲会神経難病カンファレンスで、当時日本ALS協会近畿ブロック会長だった故熊谷寿美さんのご主人と懇親会で飲みすぎ、翌朝急性胆のう炎になり2日間苦しんだ末、手術を受けた苦い思い出があったので、藤本さんと河西さんとのおつきあいはほどほどにしました。
ちなみに呼吸器装着する前の、BiPAP装着で嚥下障害があまり顕著でない場合、どんどんお酒を楽しんで結構と個人的に思っています。
概して不安が強いALS患者さんは病気の進行が早いようにみえます。
毎日をお酒を楽しめるくらいになると、病気のほうもゆっくりになるような患者さんを、個人的には何人もみています。
かくいう私は娘からパパはメタボリック・シンドロームだから飲んじゃダメだよと諭されています。

 
3.エダラボンのこれまでのALSに対する臨床試験
エダラボンは平成13年4月に発症後24時間以内の急性期脳梗塞患者を対象に承認された、フリーラジカル消去剤とよばれる医薬品です。
実はALSでもフリーラジカルが病態にかなりかかわっていることがそれまでも判っていました。
そこで13年8月から国府台病院倫理委員会承認のもと、オープン投与試験を行いました。
最初は気管切開する寸前、した直後、などの重度の患者さんが多かったのですが、呼吸器をはずせた患者さんや、はずせる時間が多くなったことに気づきました。
だんだん症例を重ねていくうちに、エダラボン投与したALS患者さんの中で、進行があまりしなくなった患者さんがいるようになり、どちらかというとまだあまり病状が進行していない患者さんにそのような傾向があったことに注目しました。
そのすぐ後に、この自主臨床試験の経過にエダラボンを製造販売している三菱ウエルファーマ製薬が興味を示し、小規模ながら、2週間休み2週間投与を繰り返し、24週間続けるという前期第2相試験を実施しました。
最初の5例は1回30mgを、その5例が2ヶ月目の投与結果安全性に問題がないとわかってからは、残りの15例に1回60mgを投与しました。
このようなステップをふんだのは、エダラボンを繰り返し投与するという経験は初めてだったためです。
その結果、60mg群では投与開始前に比較し、有意に病状の進行が遅くなったことが判りました。
しかし生活機能改善度は、オープン試験(実薬だけ投与される)ですと、どうしても患者さん、医師とも効いているはずだ、と甘い点数をつけがちです。そこで肺活量でみると、ALSの病状がまだ早期の患者さんは、6ヶ月間でも悪化せず、むしろやや増加していました。
これは器械がだす数字ですからバイアスがかかりません。
この臨床試験成績の骨子は、以下の論文に掲載されています。Hiide Yoshino, Kimura Akio. Investigation of the therapeutic effects of edaravone, a free radical scavenger, on amyotrophic lateral sclerosis (Phase 2 study). Amyotrophica Lateral Sclerosis 2006; 7:241-245, 2006.
エダラボンの効果をさらに確かめるため、バイアスを排除する目的で、プラセボ対象二重盲検比較試験をおこないました。
これは40人のALS患者さんを2群に分け、片方20人の患者さんたちにはエダラボン30mgを平日5日間、4週間続けて投与し、もう20人にはただの生理食塩水を同様に投与するというものです。
エダラボンが投与されているか、ただの食塩水が投与されているか、誰もわからない仕組みです。
この二重盲検期間が終了し2週間の休薬期間をおいてから、最後に2週間全員に実薬を投与しました。
すべての投与と評価が終了して、もう修正なし、という段階でデータ固定してから、キーオープンし、実薬群とプラセボ群の差を調べました。
薬の効果を調べるための一番確かな方法です。
この結果、全体の解析では両群に有意差はありませんでしたが、ALS機能障害度が41点以上という早期の患者さんを対象に層別解析すると、呼吸機能も、ALS機能障害度も、プラセボに対し有意に改善していました。
Norrisスコアというちょっと複雑なスコアも、有意差こそでませんでしたが、実薬群の方にかなり効果が示唆されていました。
この有意差は2ヶ月目も維持されていました。
以上の24週間繰り返し試験、8週間二重盲検試験の結果から、エダラボンはまだ障害度が進んでいないALS患者さんにはしばらくの間は病気の進行を遅らせるか、場合によっては食い止める効果があることが期待されました。
現在この効果を検証するために、全国25以上の施設で、200名のALS患者さんを対象に24週間のプラセボ対象二重盲検試験が進行中です。
平成十八年末時点で80名を越える患者さんに参加していただきましたが、まだ100名以上の患者さんの協力を必要としています。
この試験の結果が明らかになるのが、平成20年秋ころで、結果が予想通り効果を証明できていれば、厚生労働大臣にALS治療薬として承認申請を行う予定でいます。


4.エダラボン第3相臨床試験に参加するALS患者さんを全国で募集しています
3でのべた臨床試験は私が平成13年夏から平成16年4月に徳洲会にうつるまでに行った試験です。
今回3年ぶりに国府台に帰ってきて、もちろんそのころの患者さんはほとんどいらっしゃいませんでしたが、いったいどうなっているのか、前から気になっていました。
ALS発症してから3年は、半分以上の患者さんは通常お亡くなりになるか、気管切開して人工呼吸器を装着するからです。
意外とまだ元気でいらっしゃる方が多いのに驚きました。
わたしが去ったあとも地元のホームドクターが親切に点滴を続けてくださっている患者さんがいらっしゃいました。
しかし大きな問題が横たわっています。まだALS治療薬として認めてられていないので、エダラボンの点滴については自己負担になります。
投与方法にもよりますが、月に10万円以上の出費です。


5.吉野内科・神経内科医院では何するの?
エダラボンのほかにもALS治療に期待できる医薬品の開発を行いたいと考えています。
エダラボンはフリーラジカルスカベンジャーという、いわば飛び散る火の粉を消し去る働きをします。
しかし火の粉を発生させる大元を消し去るわけでありません。
この大元になる細胞を調節する可能性がある薬剤があると考えています。
この薬を用いた臨床試験を行う予定でいます。
また山形、静岡徳洲会病院で行っていたL-カルニチンのオープン投与も続けて行う予定です。L-カルニチンは細胞内の脂肪酸をミトコンドリア内に移し、エネルギー産生を補助します。
ALSで一番最初に傷害される細胞内器官はミトコンドリアであることがわかっています。まだ効果は証明されていませんが、CoQ10、クレアチン、ミノマイシンなどのミトコンドリアエネルギー代謝を補助する役割がある薬剤が、欧米ではALSに対し盛んに治験が行われています。
リハビリテーションの有用性についても検討する予定です。
実はALSにリハビリテーションがどれくらい有用であるのか、はっきりしたことは分かっていません。
これは、薬の場合はプラセボという偽薬を用いることにより公平に患者さんを割り振ることができるのに対し、リハビリの場合、「あなたはリハビリを受けないグループ」、といってもその患者さんは納得できるものではありません。
国際ALSシンポジウムでも欧米の研究者はリハビリをランダム化して、リハビリしないグループをおくのは難しい、といってました。
しかし早期にはじめたほうがいいかどうか、またリハビリの強度をどの程度にしたらいいか、という研究は、可能でないかと思います。



平成19年1月現在

                                                                 
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